事故物件の売買における告知義務とは?宅建士が国交省ガイドラインを解説
目次
事故物件の売買における告知義務とは?
国土交通省ガイドラインのポイント
告知が必要なケース・不要なケース
売買と賃貸で異なる告知義務の期間
売主・買主それぞれの注意点
よくある質問(FAQ)
事故物件の売買における告知義務とは?
「告知義務」の基本的な考え方
不動産取引において「告知義務」とは、売主や不動産会社が、買主の契約判断に重要な影響を与える事実を伝えなければならない義務のことです。
私が宅建士としてお客様に説明する際、こう伝えています。「もしあなたが買う立場だったら、『これを知っていたら買わなかった』と思うような事実は、売主側が伝えなければならないんです」と。
特に「事故物件」の場合、過去に自殺や他殺、孤独死などがあった事実は、多くの方にとって契約を判断する重要な材料になります。この点、宅地建物取引業法第47条1号は、宅建業者が「故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為」を禁止しています。
(参考:e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=327AC1000000176)
「事故物件」の定義
実は、法律上「事故物件」という言葉に明確な定義はありません。一般的には、建物内で人が亡くなり、買主や借主が心理的な負担を感じる可能性のある物件を指します。
ただし、全ての「人の死」が事故物件に該当するわけではありません。この点を明確にするため、国土交通省は2021年10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定しました。
(参考:国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」令和3年10月 https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_tk3_000001_00061.html)
国土交通省ガイドラインのポイント
ガイドライン策定の背景
以前は、物件で人が亡くなった場合の告知について、明確な判断基準がありませんでした。そのため、不動産会社によって対応がバラバラで、「どこまで告知すべきか」の判断が非常に難しい状況でした。
私の経験でも、ガイドライン策定前は、同じような事案でも対応に迷うケースが多くありました。また、「高齢者が入居すると事故物件になるリスクがある」という理由で、単身高齢者の入居を敬遠する大家さんもいらっしゃいました。
このような課題を解決するため、国土交通省は「不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」を開催し、2021年10月にガイドラインを策定したのです。
ガイドラインの位置づけ
重要なのは、このガイドラインには法的拘束力がないということです。ただし、トラブルが発生した場合、国土交通省や都道府県の監督においてはこのガイドラインが参考にされます。
私がお客様に説明する際は、「法律ではありませんが、業界の判断基準として定着しているので、これに沿った対応をすることで、後々のトラブルを防げます」とお伝えしています。
ガイドラインの対象範囲
このガイドラインが適用されるのは居住用不動産に限られます。オフィスや店舗などの事業用不動産は対象外です。
ただし、事業用不動産であっても、買主の判断に影響を与える事実がある場合は、個別に対応が必要になります。
告知が必要なケース・不要なケース
告知が原則不要なケース
国土交通省ガイドラインでは、以下のケースは原則として告知不要とされています。
1. 自然死(老衰、病死など)
老衰や持病による病死は、居住用不動産において当然発生しうるものです。私の経験でも、ご高齢の親御さんがご自宅で亡くなられたというケースは珍しくありません。このような自然死は、買主の判断に重要な影響を及ぼす可能性は低いと考えられています。
2. 日常生活の中での不慮の死
階段からの転倒事故、食事中の誤嚥、入浴中の溺死なども、自然死と同様に原則として告知不要です。日常生活で起こりうる事故であり、予測できる範囲内のものと考えられるためです。
3. 隣接住戸・共用部での死亡
マンションの場合、隣の部屋や、日常的に使用しない共用部分(通らない廊下など)で発生した事案も、原則として告知不要とされています。
告知が必要なケース
一方、以下のケースでは告知が必要です。
1. 自殺・他殺
自殺や殺人事件があった物件は、買主の心理的負担が大きいため、告知が必要です。
2. 特殊清掃が行われた場合
自然死や不慮の事故死であっても、発見が遅れて特殊清掃や大規模リフォームが必要になった場合は、告知が必要になります。
私が担当したケースでも、「お一人暮らしの方が自宅で亡くなり、数週間後に発見された」という事案がありました。このような場合は、たとえ自然死であっても、特殊清掃の事実とともに告知が必要です。
3. 社会的影響が大きい事案
報道で大きく取り上げられた事件や、地域で広く知られている事案は、期間に関わらず告知が必要とされています。
判断のポイント(図表)
ケース | 売買での告知義務 |
自然死(老衰・病死) | 原則不要 |
日常生活の不慮の事故(転倒・誤嚥など) | 原則不要 |
自殺・他殺 | 必要(期限なし) |
特殊清掃が行われた自然死 | 必要(期限なし) |
隣接住戸での死亡 | 原則不要 |
社会的影響が大きい事案 | 必要(期限なし) |
売買と賃貸で異なる告知義務の期間
売買の場合:期限なし
売買取引において、告知義務に「期限」や「時効」はありません。
私がお客様にお伝えしているのは、「売買は高額な取引です。過去に何があったか知っていれば数千万円も払わなかったかもしれない、という事実は、何年経っても重要なんです」ということです。
ガイドラインでも、売買取引については賃貸借のような「3年」という期間の定めがなく、告知すべき事案がある場合は期限なく告知が必要とされています。
賃貸の場合:概ね3年
賃貸借取引の場合は、自殺や他殺、特殊清掃を要した事案であっても、発生から概ね3年が経過すれば、原則として告知不要とされています。
これは、賃貸物件では入居者が短期間で入れ替わるため、時間の経過とともに心理的な影響が薄れると考えられているからです。
ただし、以下の場合は3年を過ぎても告知が必要です。
事件性が特に高い事案
報道等で広く知られている事案
買主・借主から質問があった場合
質問への回答義務
重要なポイントとして、買主から「この物件で過去に人が亡くなったことはありますか?」と質問された場合は、期間や死因に関わらず、知っている事実を正確に伝える必要があります。
これは宅地建物取引業法における信義則上の説明義務に基づくものです。質問に対して嘘をついたり、事実を隠したりすると、告知義務違反に問われる可能性があります。
売主・買主それぞれの注意点
売主側の注意点
1. 告知書への正直な記載
不動産を売却する際、不動産会社から「物件状況等報告書」や「告知書」への記載を求められます。私が担当する場合、売主様には「記憶にある事実は全て記載してください」とお伝えしています。
過去の事案を隠して売却した場合、後から発覚すると、損害賠償請求や契約解除のリスクがあります。
2. 調査への協力
不動産会社は、売主に対して過去の事案について確認を行います。これは、ガイドラインで定められた「通常の情報収集としての調査義務」を果たすためです。正直に回答することが、後々のトラブル防止につながります。
3. 価格への影響を理解する
事故物件は、一般的に市場価格より低い価格での売却となります。私の経験では、事案の内容にもよりますが、相場の70〜90%程度になることが多いです。ただし、時間の経過や物件の魅力によって、価格への影響は軽減されることもあります。
買主側の注意点
1. 積極的に質問する
気になることがあれば、遠慮なく不動産会社に質問してください。先述の通り、質問に対しては正確に回答する義務があります。
2. 重要事項説明をしっかり確認する
契約前の重要事項説明では、告知事項についても説明があります。説明内容に不明点があれば、その場で確認することが大切です。
3. 周辺環境も確認する
物件自体に事案がなくても、周辺で重大な事件があった場合、心理的な影響を受けることがあります。可能であれば、近隣の方に話を聞いてみることもおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 事故物件であることを隠して売却したらどうなりますか?
A. 買主に対する損害賠償責任を負う可能性があります。また、契約解除となった場合、手付金の返還だけでなく、仲介手数料や引っ越し費用などの損害賠償を請求されるケースもあります。
私が知る実例でも、告知義務違反を理由に100万円以上の損害賠償が認められた判例があります。「バレなければ大丈夫」という考えは非常にリスクが高いです。
Q2. 何年前の事案まで調べる必要がありますか?
A. ガイドラインでは、宅建業者に対して「自発的に調査すべき義務」までは求めていません。ただし、売主への聞き取りや、入手可能な資料の確認は必要とされています。
売主が知っている事実は、何年前のものであっても告知対象となり得ます。
Q3. 建物を解体して更地にすれば告知不要になりますか?
A. ガイドラインでは、この点について明確な基準が示されていません。ただし、過去の裁判例を見ると、建物を解体しても土地取引において告知が必要とされたケースがあります。
私の実務感覚としては、重大な事案があった土地については、更地にしても告知した方が安全だと考えています。
Q4. 病院で亡くなった場合は告知不要ですか?
A. ガイドラインでは、「搬送先の病院で死亡した場合の取扱い」について具体的な基準が示されていません。ただし、物件内で心肺停止の状態で発見され、病院に搬送後に死亡が確認されたケースでは、実質的に物件内での死亡と同視される可能性があります。
個別の事情を踏まえて判断が必要なため、迷う場合は専門家に相談されることをおすすめします。
Q5. ガイドラインは今後変更される可能性がありますか?
A. ガイドラインには「判例等の蓄積を踏まえ、適時に見直すことを予定している」と明記されています。現時点では2021年10月の策定から大きな改正はありませんが、今後の判例や社会情勢の変化により、見直しが行われる可能性はあります。
まとめ
事故物件の売買における告知義務は、売主・買主双方にとって非常に重要なテーマです。ポイントを整理すると以下の通りです。
売買取引では告知義務に期限がなく、告知すべき事案は何年経っても告知が必要
自然死や日常生活の不慮の事故は原則として告知不要
自殺・他殺・特殊清掃を要した事案は告知が必要
買主から質問があれば、期間や死因に関わらず正確に回答する義務がある
隠して売却すると、損害賠償や契約解除のリスクがある
私が実務で常に心がけているのは、「正直に伝えることが、長期的には売主・買主双方のためになる」ということです。不明な点があれば、お気軽にご相談ください。
この記事の情報は2025年1月時点のものです。ガイドラインは今後見直される可能性がありますので、最新情報は国土交通省の公式サイトでご確認ください。
参照元・出典一覧
国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」令和3年10月 https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_tk3_000001_00061.html
国土交通省「報道発表資料:ガイドラインを策定しました」令和3年10月8日 https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo16_hh_000001_00029.html
国土交通省「ガイドラインの概要」令和6年3月時点 https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001427709.pdf
国土交通省「ガイドライン本文(PDF)」 https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001426603.pdf
e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=327AC1000000176
著者情報

佐須陽介
代表・宅地建物取引士
宅地建物取引士(静岡) 第 025298号 賃貸不動産経営管理士(2)第 059325号 住宅ローンアドバイザー
業界歴15年
静岡市出身、現在は静岡市を拠点に不動産仲介・コンサルティング業務を手掛けています。これまで新築・中古マンション、戸建、賃貸管理まで幅広く携わってきました。
数多くのお客様の住まい選びをサポート。住宅ローンの借り換え支援なども含め、現実的な選択肢を提示することに定評があります。
静岡市を拠点に不動産仲介・コンサルティング業務を手掛けています。私自身もかつて住宅ローンの借り換えを経験し、「数字に強く、現実的な選択肢を示すこと」を常に心がけています。代表メッセージ(Authentill Style)にあるように、お客様に寄り添い、安心できる住まい選びを一緒に進めたいと心から願っています。
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